iPhoneXやXperiaXZ3をはじめ、2017年から2018年にかけて、有機EL(OLED)に対応したスマートフォンがたくさん登場しました。2020年に入り低価格グレードでも有機ELが登場していますし、高級テレビにも有機ELが搭載されるようになってきました。
しかし、「OLEDとは?」「有機ELって綺麗って聞くけど、何が違うの?」と思う人も多いはず。この記事では、もともとディスプレイ関係の仕事にも携わっていたことがある私が「有機ELと液晶ディスプレイの違い」をどこよりもくわしく説明します。
有機ELとは(OLEDとは)?
有機ELの名前の由来、略称の意味
有機ELの名前の由来は、「Electro Luminesxent(エレクトロルミネッセンス)」の略です。日本語にそのまま直すと、電気発光となり、名前の通り「電気を流すと発光するもの」がこのELとなります。
有機ELは名前の通り、有機物が発光物として使われています。化学式が苦手な人もいるかもしれませんが、東京化成のホームページなどを見ると、有機EL用の材料が載っていたりします。
後でくわしく説明しますが、電気を流した時に発光する仕組みから有機ELの多くは、ベンゼン環を持っているケースが多くなっています。
有機ELの反対で、無機ELというものも存在します(有機物を使っていない)。こちらはSEKONICのホームページを見てみてください。
OLEDの名前の由来、略称の意味
有機ELは、雑誌などを見ているとOLEDと略されていることがあります。OLEDは「Organic Light Emitting Diode」の略で、日本語訳すると有機発光ダイオードとなります。
以下は、Wikipediaからの引用です。
有機EL(ゆうきイーエル)とは発光を伴う物理現象であり、その現象を利用した有機発光ダイオード(ゆうきはっこうダイオード、英: organic light-emitting diode: OLED)や発光ポリマー(はっこうポリマー、英: light emitting polymer: LEP)とも呼ばれる製品一般も指す。
(Wikipedia:有機エレクトロルミネッセンス)
このように、他の種類もあるため大きなくくりになるのが、有機ELです。
スマートフォンに用いられている有機ELはOLEDなので、iPhoneなどを紹介する雑誌では有機EL(OLED)と書かれていることが多いですね。
本記事の略について
スマートフォンでは有機EL=OLEDという認識のため、以下から有機ELと書いているものはOLEDと思ってください。
有機EL(OLED)で映像になる仕組み
有機ELがすごいところは発光の仕組みです。有機ELは物質自体がそれぞれが電気を流すことで勝手に光ります。先ほどの東京化成のホームページにもあったように、有機ELの材料はたくさんあります。
光るといっても、それぞれの材料で電気を流すと発光する色が違います(化学構造によって発光の色が変わります)。
その色を波長を調整して、光の三原色(赤、緑、青)の有機ELを用意し、電圧をかけて発光させ、画面を表示しているのです。
ちょっと難しい「発光」の話
有機ELが発光する仕組みを、とても簡単にいうと、いかのような仕組みの順で光っています。
有機ELの発光システム
- 有機ELに電圧をかけるとパワーがたまる
- パワーはずっと持っておけないので放出する
- 放出するときに、電気ではなく光を出す
要するにもらったパワー(電力)を貯めておいて、パワーを出すときに光エネルギーとして放出します。
この物質が貯めておけるパワーの力によって、光の色が赤、青、緑などに変わります。
貯めておけるパワーは、材料(物質)によって違うので、たくさんの有機EL材料(たくさんの異なる化学物質)があるわけです。
液晶とは?
液晶の名前の由来
液晶というと、ディスプレイというくらい世の中に浸透しました。ただ、本当の意味での液晶を知っている人は少ないと思います。液晶は名前にも書いてありますが、液体と結晶(固体)の中間の材料です。図で表すと、以下のようになります。
この液晶分子によって、光の暗さをコントロールします。実際には、配向板(層)と言われることが多いですね。
液晶ディスプレイの仕組み
まず液晶ディスプレイは、簡単に言うと、こんな構造になっています。左から人が見ていると思ってください。
この配向膜というところに、先ほどの液晶が入っています。ここで液晶は、ブラインドをイメージしてみてください。液晶は電気をかけると、”並びが変わって”ブラインドのように光を遮ることができます。
すると、後ろから光が当たっているのに、光が通らない箇所が出てきますよね。これがいわゆる「黒い」部分です。
私たちの目に届く直前にカラーフィルターがあるので、これをうまく赤緑青の光の三原色を、液晶をブラインド的に使い、コントロールすることで映像を出力しています。
液晶がブラインドのようにそろうことで後ろからの光を通さない、というニュアンスがわかりやすいと思います(実際にもそうなっています)。
有機ELと液晶ディスプレイの違い・比較
バックライトを必要とせず、そのものが発光する有機ELの方が優れたポイントが数多くあります。後ほどそれぞれについて詳しく説明しますが、有機ELが優れたポイントは、以下の6点です。
有機ELが優れた6つのポイント
- 薄くできる
- 黒が美しい
- 画面の応答速度が良い
- 画面を曲げられる
- 常時表示ができる
- 省電力になる
有機ELは画面が美しいと言われることが多いですが、個人的にスマートフォンで使うことを考えると「3の画面の応答速度が良い」が最も魅力的なポイントです。
応答速度が良いと、画面の残像感が消えて、スマホをよりサクサクと使えるようになります。
残像感とリフレッシュレート
残像感を無くす方法にリフレッシュレートをアップさせる方法があります。リフレッシュレートとは、1秒間に何回画面を更新するかです。60Hzと120Hzでは倍になり滑らかさが大きく変わります。これは液晶でも可能。つまり、同じリフレッシュレートで比べるなら、有機ELの方が優れているという表現になります。仮に60Hzの有機ELと120Hzの液晶なら、120Hzの液晶の方が残像感は優れています。
有機ELは液晶よりも薄く作ることができる
これまでは、テレビ画面を光らせるためには「後ろから光を当てる」必要がありました。しかし、有機ELディスプレイの場合はバックライト等を必要とせず、物質自体が光ります。
そのため、後ろにバックライトを用意する必要がなくなり、構造的に薄く、軽くできるようになりました。日経トレンディの記事ですが、LGが壁に"貼る"テレビを出しています。それほどまでに薄くできるのです。
有機ELが液晶より黒が綺麗に出る理由は「コントラスト比」
液晶ディスプレイのところでも説明しましたが、液晶は中の結晶がブラインドのようになって光を遮ることで黒を作り出します(暗くしているだけ)。つまり、本体の後ろでは全開で光っていることになります。
ところが、有機ELの場合は必要なところにだけ電気を流し、物質を発光させます。そのため、黒の部分は全く光のない完全な黒状態にできます。
そのため、黒の表現力は液晶ディスプレイよりも有機ELの方が圧倒的に優れています。これは数値でも現れており、コントラスト比でみると、iPhoneXで100万:1、液晶モデルのiPhoneだと、1400:1と大きな開きがあります。この高いコントラスト比が示すように、有機ELは黒のエッジを際立てることで美しさを表現しています。
これが有機ELの画面が美しいといわれる所以ですね。店頭やパンフレットを見るとわかりますが、有機ELの製品は黒を推しているものが多いです。これは「黒が美しい」という理由からアピールしているんですね。
有機ELの反応速度が良い(残像が少ない)理由
有機ELは液晶と比べると、明らかに反応速度が高くなります。液晶の場合は、結晶が並び変わることでブラインドのようになって、光をコントロールすると書きました。要するにブラインドを動かす時間が必要です。
ところが、有機ELの場合は、電気を流して発行するだけなので、結晶の配列を組み替える時間分は無視することができます。その分、有機ELの画面の応答速度が速くなります。画面の応答速度が速くなると、残像感が一気になくなります。これはiPhoneでもandroid出も関係ないディスプレイとしての性能です。
スマートフォンはコンマ数秒で画面遷移することが多いことや、情報量の多いゲームを楽しむ人が多いことを考えると、絶対的に有機ELの方がおすすめです。
有機ELのメリット・有利な点
有機ELは曲げられる
有機ELの特徴の一つとして、曲げることができることが挙げられます。以下の記事ではフレキシブルディスプレイの動画が上げられています。
ネットでも腕につけて、曲がるディスプレイなどを見たことはないでしょうか?有機ELは仕組みのところでも説明しましたが、液晶と違い、有機ELは自発光のためバックライトを必要としません。そのため、ディスプレイが曲がっていても作れるメリットがあります。
有機ELの方が物理的にベゼルが狭くできる
iPhoneXsは有機ELですが、同じ時期に発売されたiPhoneXRは液晶ディスプレイです。XRも液晶としては美しいことをウリにしていますが、実は大きな欠点があります。それがエッジの幅。比べてみると、XRの方が大きくなっています。
実は、有機ELの方がそのものが発光する仕組みのため、構造上端をぎりぎりまで詰めることができます。
スマートフォンだけでなく、これはテレビでも同様。できるだけエッジレス(ベゼルが狭い)ディスプレイを求めるのであれば、有機ELを選んだほうが理想的なのです。
技術的な話
液晶でエッジレスに寄せているものは部品を小さくしたり裏の配線を曲げたりしています。構造的には有機ELの方がシンプルになっています。
有機ELは常時表示に向いている
これも有機ELが自発光できることを考えるとすぐに答えが出ます。理由は、常時表示する場所のみに電気を送ればよいから。液晶だと、全部に光を送って必要なところだけ閉じているような状況なので、常時表示はでなくなっているんですね(正確にはできるが、電力を消費し続けるため)。
実際にこの技術を使って、AOD(Always On Display)表示のスマホが増えています。以下は、Pixel3の表示指紋認証解除の動画ですが、本体電源をオフにした時の画面が黒くなった時の表示はまさに有機ELだからこそできる芸当です。
有機ELは薄くできるため、画面内指紋認証も搭載できる
有機ELは自発光するための有機EL以外がメインの部品で、液晶のように背面に複雑ないくつもの層が必要ありません。そのため、画面内の指紋認証に対応することができます。
Oppo Reno Aの指紋認証です。
体感はReno 10x zoomと同じくらい速い感じ。
R17 neoからの進化を感じます。 pic.twitter.com/uLZoMjesVF
— SIMPC|シンプシー公式 (@simism_net) October 28, 2019
OPPOから発売されているReno Aでは画面内指紋認証に有機ELディスプレイで対応している機種になりますね。
液晶の有利な点
液晶が優れている点は安価に生産できること
もちろん液晶にも優れたポイントはあります。それは安価に生産できること。有機ELを作っている会社はサムスンなどまだまだ限られるため、供給量が安定していません。そのため、価格帯の低いスマートフォンの場合はまだまだ液晶ディスプレイが主流になるでしょう。
液晶の方がディスプレイ寿命としては長い
有機ELディスプレイは自発光させる仕組みなので、電気的に常に負荷をかける形になります。そのためディスプレイの寿命としては短くなります。とは言っても、数年は持つレベルなので、実用レベルでは心配する必要はありません。
有機ELは焼き付きの問題がある
有機ELには常時表示できるメリットがある一方で、その色が焼き付いてしまう問題があります。これについては、気になるなら常時表示しなければ良いでしょう。
有機ELを液晶ディスプレイのどちらが良いのか
基本的に後発で出た有機ELの方がディスプレイの性能としては圧倒的に優れています。静止状態での色の綺麗さはあまりわかりませんが、画面を操作した時の残像感ははっきりとわかります。
店頭でiPhoneXとXRを比べてみると一目瞭然です。価格面では当然違いがありますが、滑らかな動きを追求する人は有機ELを使うようにしましょう。
有機ELと液晶ディスプレイの違いまとめ
この記事では有機ELの仕組み、液晶の構造から、それぞれのメリット、デメリットについてまとめました。一般的なところを解説している記事はありますが、構造面から解説している記事はほとんどなかったので、元プロの目線からできるだけわかりやすく書きました。
有機ELが適用されている、もしくは使われそうな未来の製品については、日本の有機ELメーカー「JOLED」のホームページを見るともっと楽しめます。ぜひ見てみてください。
公式サイト
以下の記事では、これまでの主流であった液晶ディスプレイの中でも「TFT液晶」の仕組みについては以下の記事でまとめているので、こちらも参考にしてみてください。
-
TFT液晶の仕組み・原理をやさしく解説
続きを見る